2008年08月15日

短編『悪魔』

 デメトリオ少年は困っていた。
モールで催されるプロレスの野外興行を見に来て
親とはぐれてしまったことにも困っていたのだが
それ以上に、同じような迷子の女の子が後からついてくることに困っていた。
「あっちいけよ」
女の子は汚れた人形を片手で抱えて、無口のまま少年を見ている。
「ちぇ、勝手にしろ...」

そんな二人の背中から声。
「君たち迷子なのかい?そうだろう」
振り返ると、大柄な金髪の男が真昼の太陽を背中に受けて煉瓦に影を落としていた。
しかし、どうして僕らが迷子だなんてわかったんだろう?
「どうしてかって?迷子の臭いがプンプンするからさ。俺の小さい頃と同じ臭いなんだよ」
男は誘拐しそうな雰囲気でもなかったので、彼が手招きする方についていった。
しばらくいくと、モールの駐車場にたどりついた。
まわりの人々も同じ方向に流れて行く。走って行く人達も少なくない。
流れの先は、駐車場の中央に高くもうけられたどぎつい赤で塗られているリング。
金髪の男は、二人を前で待たせて彼には小さすぎる黄色の古ぼけたワゴン車の中に入っていった。
少年と女の子はしばらく待たされ、ワゴン車がユラユラ揺れているのをみていた。
「よし」
といって車のドアを開けるとそこから出てきたのは
「デビル・フランコ!」
幾多のレスラーを極限まで追いつめ痛めつけ地獄に突き落とした極悪非道の悪役レスラー。
しかし、声はさっきの男の人だ。
「ついてきな」

二人はあっというまににぎやかなリングサイドに。
デビルフランコは、軽々と二人を両方の肩にかかげ
リング上にいる正義の戦士アーザブランカに向かって叫ぶ。
「ぬぅあはぁっはぁっはぁっはぁっ!!この人質二人を返してほしければ、俺様の言う通りにするんだ!」
たっぷり注目をあびた二人をデビルの手下役らしき骸骨の覆面をかぶった男たちに預けると、ひらりとリングにあがる。
アーザブランカが太い指を突きつけて「お前のような卑怯な奴は反省の時間が必要だな!」と言い放つ。
しかし、その言葉を言い終わらないうちにデビルが突進!パンツから出したニードルサックをブランカに振りかざそうとした瞬間、
ブランカ怒りのハイパーバブルジェット裏拳がデビルの顔面にストレート炸裂!
華麗にぶちのめされて、錐揉みで空を切っていくフランコ。
まるでそこだけが真空のように、異様なほど長い滞空時間を経て
やがてゆっくりとゴム人形のごとくマットに沈むフランコ。
弾むようにどよめく観衆。
少年と女の子二人の名前を呼ぶ親達の声がリングの左右から近づいてくる。
上で血まみれになったまま仰向けになっているデビルがデメトリオと目が合った。
黒いマスクの奥でにんまりウインクしたかと思うと、屍を喰らう不死のグールのように起き上がった。
そして炎天下のマットの上、悪魔の反撃は始まった。



おしまい。
posted by tom at 01:19| Comment(1) | TrackBack(0) | 短文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これ、面白かったです。
ストーカーZみたいね。
Posted by 佐藤さえ at 2008年08月28日 00:07
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