2010年08月31日

年寄りな物語/「青は緑」 02

 青々と揺れている稲田の横に止めた車、中年の夫婦がタマゴアイスを食べている。
街にも田舎にもなりきれていない土地の、なんとものどかな風景である。



「お義父さん、なーんで今更引っ越しなんかするんだろ」
太り気味の旦那が独り言のようにつぶやいている。
「知らないわよ」
ゴムのてっぺんからにゅるにゅると出てくるアイスを寄り目で睨みながら答える妻。
「大丈夫かな、年寄りの一人暮らしって」
「これでもあの頑固者を1年の期限付きで承諾させたんだから」
「ははは、お義父さん人当たりやわらかいけど、結構ガンコだよな」
「もー、苦労させられたわよ」
「…ところで、あの仏壇の横にあった変なの見たか?」
「ああ、あれ?なんでも知り合いの息子がアーチストで、作品買わされたとかなんとか」
「そうか。俺はまたてっきり妙な宗教団体に勧誘されてたりしてるんじゃないかって思ったよ」
旦那のアイスが溶け切り、ゴムの口から吹き出して服にかかった。
「うわ、ヘッタクソねぇ!」

 リサイクルショップのトラックが老人の家の前に止まってる。
玄関にはいろんな家電や袋に入った衣服が並んでいる。
「このガスファンヒーターですが」ショップの帽子を被った青年が金髪を掻きながら説明している。
「改装したときにもらったんだが、使ってないよ」
「季節外商品なので買取対象外になるんです」
「ほう」正座した老人が青年からもらった明細書を見ながら聞いている。
「それと、この炊飯器なんですが」
「ガス展で当たったんだが、使ってないよ」
「製造から8年以上たってるので、これも買取対象外になります」
「ふむ」
「あと、この古着ですがキロ30円ですので90円です。しめて、945円です」
「…アイス喰うかね?」
「だめですよ。これ以上値は上がりませんよ。僕バイトですから」
「知ってるよ。暑いだろ、アイス喰う?」
「…じゃあ」

 縁側でタマゴアイスを食べる2人。
「へぇ、おじさん、街に引っ越すんだ。面白いなぁ」
「いろいろ整理してから行きたいんでな。面白いかい?」
「ああ、若いよ若い!」
「『若い』は年寄りだからこそ言われるんだ」
「おじさん住むところ決まってないって言ってたよね。探してやろうか?」
「最近のリサイクル屋は不動産まで扱ってるのかい?」
「ぷっ、俺の好意からと受け取りねぇ」
と言いながら、携帯電話を取り出し誰かと短い会話をした。
「おし、それ聞いてからまたあとでかけなおすわ、じゃな」
青年はアイスを一気に吸い込んで終わると、老人に向き直り、
「おじさん、ブーヤンって奴に住むところ探させるから、街の中で行きたいところ通いたいところをピックアップしてってよ」

 その後2人は30分ほどかけていろいろ計画を立てた。そのうちに青年は、あの坂の多い街を移動するなら電動自転車が必要かもなどとアドバイスもしてくれた。
「中古の電動自転車は、バッテリーがヘタってるので、ここは新品を買う方がいいよ」
「そうだな」
老人は、青年が自分の事のように考えてくれるのを嬉しく思った。そう、だれでも新しい事を考える時はわくわくするものなのだ。

 青年が老人の古着を入れたビニール袋を助手席に置いて最後にこう言った。
「ブーヤンが言ってたよ『セミみたいなじいさんだな』って」
「セミ?」
「セミはさ、何年も地下に居て、最後の数週間を広い外の世界で過ごだろ」
「なーるほど」

 トラックが去った後、老人は時計を見て、奥の部屋の枕のあるところに行った。
午後の風がすだれをゆらして畳の上に陽射しの波を作っている。
 老人は目を閉じて「…セミ、か」と呟いて笑い、眠りにおちた。

【つづく】
posted by tom at 18:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 短文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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