2013年11月13日

小説「心は孤独な狩人」カーソン・マッカラーズ

ろうあ者のシンガーさんが町に住み着くと、皆が会いに来るようになる。
人々は心に溜まる不満や希望を彼に語る。
彼は静かに頷いて、いつまでも話を聞いてくれる(読唇)のだ。


空虚で不気味な物語です。
シンガーさんは心が広い救世主のように見えます。
しかし、人々は相手が頷いてくれるのをいいことに
単に鏡に映った自分に語っているのと変わらない事をしているのです。
 
ではシンガーさん自身は本当に素晴らしい人なのかというと.....これは疑問です。
彼は以前同居していたおなじくろうあの男を心の支えとしています。
シンガーさんはお金を貯めると、粗暴で精神病院に入院している彼のところに訪ねて
一日中必死に手話で語り続けるのです。
男の方はシンガーさんからもらった差し入れに夢中で何も聞いてません。
シンガーさんは、町の人のことも語るのですが「彼らが何をいってるのかよくわからない」といってます。
この部分は評論集「トラウマ映画館」で町山氏も戦慄した部分として指摘していました。
何かに向けられた思いや願いが全く受け止められる事なく、空回りして、消えて行くのです。
救いがたく恐ろしい、この虚しさはもの凄い。
美人でも優男でも無く、お金もなく、仕事も楽ではなく、愛情には埃がつもり、毎日が同じ日。
そんな人々の望みをかなえてくれる出来事って....。

これは読んでいて、いやだったけど、なぜかページをめくってしまう暗い吸引力がある物語でした。
読者も登場人物とまったく同じでないけれど、何処か同じ思いを持っている部分が有るのに気がつかされるのです。
また私事になりますが、退職の気分を後押しした一端は、偶然会議のある週に読んでいた
この物語にもあったような気もします。物語の結末を教訓とできるのかどうかはこれからです。
自覚しなければ、その症状に病名を付けなければ、その方が幸運かもしれないことがある。
ある意味危険な物語といえますか。
posted by tom at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 濁書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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