2007年10月30日

獣達の反省会

竹田町自治会館、談話室。
テーブルでは、婦人達が秋祭りの抽選会の準備中。手際の良い奥さんが文字の形に画用紙を切っている。
その部屋の隅、巨大な相田みつをのカレンダーが下げてあるテレビのところで、5人の老人がパイプ椅子を寄せて談義中。
「ええい、悔しいわい悔しいわい!」
町長・生田ハギオ78歳が腕組みをし、ツバを飛ばして怒っている。
話の内容は昨日行われた「住民運動会」について。
松町、竹町、梅町、海苔町の4町が合同で行う運動会において、毎年優勝している竹町をさしおいて海苔町が勝ったことに怒っているのであった。
「やっぱり、騎馬戦を復活すべきなんじゃないか?」
「騎馬戦は7年前に梅町の阿多尾さんが落馬してから中止になったからのう」
「あいつは年寄りのくせしていっぱしの軍師きどりで乗るからじゃ。年齢制限すりゃあいいのに」
「それより問題は今回なぜ海苔町に負けたかということじゃ!『町対抗リレー』は松に譲ったとしてもじゃな、なんで『障害物リレー』に負けたんじゃ?」
松町には3世代国体出場の一家が居るので、竹町としてははじめから『町対抗リレー』を捨て、次に得点ポイントの高い『障害物リレー』に懸けていたのだった。
「例の『勝つ計画』ちゅうのはどうなったんじゃ?!」
「ちゃんと予定通り実行しましたよぉ」
「じゃあなんで、海苔町のチビが一番になったんじゃ?!」
「チビは濱田って子供ですな。あれでも5年生ですよ。それがわからんのですよ」
「今ここで、その計画ちゅうのを見直してみようや」

コース上の障害物は、

・おはしでピーナッツ(ピーナッツをお箸で隣の皿に5粒移動させる)
・ドンゴロス(麻袋に両足を入れてジャンプして50m)
・なわとび(なわとびで100m)
・段ボール戦車(キャタピラ状の段ボール内に入って30m)
・ピンポンスプーン(ピンポン玉をのせて50m)
・直線50m走


の順番で、出場するのは各町から5人。
そして、その『例の計画』の内容とは

「おはしでピーナッツ」箸を持った時点で箸先をなめてピーナッツがくっつきやすくさせる。
「ドンゴロス」両足を入れる際、おっとっととけつまづく演技をしながら半分の距離をケンケンでかせぐ。
「なわとび」なわをゆっくりまわしながら足の方をはやく動かし、なるべく飛ばない。
「段ボール戦車」わざと入る段ボールを間違えて相手の段ボールに入り、屁を残しておく。自分の段ボールの中ではハイハイではなく前転で進むこと。
「ピンポンスプーン」なるべく柄を短く上から持って、人差し指で飛ぶピンポンを押さえながら走る。


「まぁ、そういったものをやりまして...」
「...かなり卑怯じゃな」
「はぁ」
「とにかく以上のことを、毎週選手全員で練習いたしまして...」
「ここにその本番を撮りましたビデオがございます」

男達がテレビで流れるビデオを、しばし無言で観ていたが
「...なんじゃ4人目までちゃんとやってるじゃないか。いやいや、アンカーもしっかりやっとるじゃないか」
「そうですね...おや?」
撮影位置から一番遠い場所で何かが起こった。竹町選手の足が止まっている。そこに後ろの選手がぶつかってくる、ぶつかってくる。
「おいおい、これは何じゃ?何がおこったんじゃ?!」
「ええと、何でしょう?ここはいったい何をしてたところだった?」
「ピンポンスプーンのピンポンとスプーンを回収するテーブルのところですな。係が回収してますね。」
「ああ、あれはウチらのテーブルですわ。ハギオ会長が足を切った会議用テーブル」
それは『自称地球にやさしい節約家』の会長が、錆びたテーブルを切って足をそろえたものだった。
テーブルの向こうで玉突きが続出している中を背の低い子供ひとりがヒヨコヒョコと通り抜け、ゴール。
「いいい、一体何が起こったんじゃ?」
「さぁ、このビデオでは何がなんやら」
「ちょっと巻き戻してください、ああ、これ、この人、この人の撮ったものをみせてもらったらどうですかね?」
男が一人、トラックの外でビデオカメラを顔に当てたまま並走している。
「...濱田の親父ですわ。このチビのオヤジ」
「ううう、適当なこと言って、このテープを借りてこい。それと、ここに居た係に話を聞いてこい」

〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜○〜

40分後、パシリに出された二人が同時に帰ってきた頃には
作業をしていた婦人連中は作業を終えてよその部屋に休憩に。
絵の具を塗った画用紙のきり文字だけが、開け放たれた窓の前に並べられている。

「例のチビしか家に居ませんでしてね、菓子を持っていったらホイホイ親父の部屋から持ってきてくれましたよ」
「ああ、わかったから早よビデオをかけるんじゃ」
ポカーンとしている子供のアップが映る。我が子へのインタビューが延々続く。
「こんなバカチビはいいから、先にやってくれ」
しかし、当然のことながら息子の映像ばかりが続く。
玉入れは入らない、二人三脚では足をひっぱる、早送りでも子供が運動音痴なのがよ〜くわかった。
「...長いのう」
「長いですね...」
「で、例の係の話はどうだったのじゃ?お、障害物がはじまった」
先ほどのレースが違う位置から撮影されている。
そのレースの映像がはじまった。
並走する映像はグラグラと揺れている。
「気分悪いのう」
「ええ」
もたもたと走るチビは次々と長身でたくましい少年達に追い越されて、父親のカメラにも追い越される。
カメラは障害の前に止まり、少年が苦労しているところをうつしている。
『ガバレッ!ガバレッ!』という父親の声はひっくりかえっている。
「うわ〜、親バカも恥ずかしいもんですな」
そして、問題の「ピンポンスプーン」の障害に。
「そうそう、回収の係は桂という男だったんですが、この日ずっと腹具合が悪かったらしく、この最終レースだけ人に変わってもらったそうです」
「だれに?」
「ああ!ここじゃここじゃ!スローモーションにせんかい!」
先回りしたカメラがピンポン玉とスプーンの回収位置で、先頭の選手を映す。

竹町選手、スプーンを持ったままユルユルと醜悪な顔で迫ってくる。

ブルブルと揺れる頬、ピンポン玉をしっかり押さえている人差し指。

カメラは選手を追ってテーブルの正面までくる。

テーブルの向こうにいたのは
「なんでも桂の婚約者でピアノ教室の講師、性格は温厚、町一番の色白美人と...」
選手はピンポンとスプーンを彼女に渡そうとして、その低いテーブルに落とした。

彼女は優雅な仕草で白魚のような指先を伸ばし玉を落とさないようにかがむ。

肩から清流のように流れ落ちる黒髪、そして深緑のゆるい襟ぐりが花の蕾が開くように広がり

ああなんとその奥から、その奥から、
浅く白色のブラに包まれたこれまた信じられないほど白くたわわにこぼれおちそうな乳房が。



竹町選手の動きが止まる。

ビデオを観ている老人達も呼吸を止める。

そして、とうとう濱田父によるカメラさえもズゥーーーーーーム...

そこへ梅町の走者が追突!阿波踊りをを舞うようにスローでもんどりうつ竹町選手の鼻から鮮血がしぶいたが、それが追突の際に出た物ではないことは一目瞭然。
それを期に気をとりもどしたカメラ=濱田親父が見失った息子をさがしてカメラをパンする。
焦点が合わないまま、ゴールのリボンを切るチビの後ろ姿がぼんやり映って...

「...け、けしからんな...」
「まことに...なんというか...けしからんですな...」


彼女が低くかがんだ原因はハギオがテーブルの足を切ったたため。またチビの濱田が勝ったのは、その身長の低さゆえ「何」も見ずに通り過ぎたからだった。
しかし5人の老人の中からはそれを指摘する声も無く、ただ黙々と腕を組んで
「次回の対策を練る」ために何度も、何度もビデオを再生し続けた。

窓の外から秋風がいたずらに吹き込んで、夫人達のつくった文字を飛ばす。
「竹」の字の一部が相田みつをのカレンダーにくっついて、こうも読めた。


いいじゃないか、人間だもの

(おしまい)


運動会3部作といっておきますか(笑)
あとの2作はこちらです。
「10月の鉄槌」
「10月の心意気」
posted by tom at 11:37| Comment(4) | TrackBack(0) | 短文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちなみに、先日ウチの近所でも住民運動会がありまして
その時に作品の「ヒント」をいただきました。
...いやいや、まぁ、なんというか
みなさんああいうときの服装は注意してね。ゲホゲホ。
Posted by とむ at 2007年10月30日 13:33
おとうちゃんたちはああいうときはああなってこうなることをしってたりする。。ゲホゲホw人には言わんけどwでも
おくたん連中はいがいにきにしてなかったりするのかも。おいらも
ああいうときはああなってこうなるのを知っているので、おくさんにはくび周りのしっかりしたてーしゃつをきるようにしどうしております。
いっとくけどあくまでしぜんにもくげきするのであってけっしてきたいなどしてないでごわす。ゲホゲホ。
Posted by たま at 2007年10月30日 14:58
そうそう、しぜんにもくげきするんですよね。
トム・クランシー作「いまそこにあるちち」
Posted by とむ at 2007年10月30日 17:39
くやしいですが
ケータイ小説「恋空」の破壊力には負けてしまってますね。残念。
Posted by とむ at 2007年10月31日 09:43
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